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首から上か? 首から下か? エクササイズの二つの考え方   2012.04.07

最近よく耳にする言葉の一つ「ファンクショナル・トレーニング」(Fuctional Training)。サッカーでの選手育成法ではない。フィットネスでのパーソナル指導法の一つ。筋力やコーディネーション(動作の協調性)能力を高める。コア・マッスル(体幹筋群)の安定性やバランス能力を向上する目的に行う筋トレのことです。もともとはリハビリでの機能改善の訓練用語。バランスボールやバランスディスクなど使用して行うのが一般的。加圧トレーニングのヒントももとはと言えばリハビリですから、これも同じ。要するにリハビリでも治療効果があるのなら健常者でもOKかも…。そんな発想がどこかにあったのかも知れません。そこで、躯幹の安定とバランスを高めるエクササイズの考え方を簡単におさいをしてみましょう。

 
 

エクササイズには幾つも考え方や見方があります。その中の一つ。ちょっとユニークな考え方を紹介します。『首』を基準に上と下とで分ける考え方です。つまり<首から下か?>あるいは<首から上か?>。

■首から下は ⇒ エネルギーの摂取と排出
呼吸・循環・消化などの諸機能への刺激と向上を主たる目的としたエクササイズです。一般的には動きが速く、その動きの回数が多い。つまり、量的運動(Fast but Quantity)と言うことになります。

■首から上は ⇒ エネルギーの調節と制御
感覚・内外分泌・神経などの諸機関への刺激と向上を主たる目的としたエクササイズです。ですから、回数は少なく、比較的ゆっくりした動き。つまり、質的運動(Slow but Quality)と言うことになります。

もちろん、この「量」と「質」の両端を支える天秤の要的な役割は骨格・筋肉・内臓・脳の4つ。とりわけ脳は要の中の要。圧倒的な支配力を有していることはご承知の通りです。エクササイズのモティベーションをキープできるか否か。脳の働きで決まるわけです。ですから、飽きがこないように「摂取と排出」と「調節と制御」とが交互に働く。また、その時代によって「摂取と排出」へ傾いたり、「調節と制御」へ傾いたりする。すべては人々のモティベーションをキープするのがねらいです。今の時代はどちらかと言えば、<首から上>のエクササイズへ。つまり、エネルギーの調節と制御へ傾いているわけです。そのうち、人々が飽きはじめると徐々に<首から下>のエクササイズへとトレンドやベクトルが移り始めることになります。

そこで<首から上へ>の考え方のルーツとなったことにを少し紹介していおきます。エネルギーの「調節と制御」の切っ掛けは実は姿勢矯正から始まったのです。ズバリ脊柱からスタートしました。つぎの3つがその代表格です。

◎アレクサンダー・テクニーク
頚椎(7個)が最も重要。全てはココから始まり、徐々に下方へと発想する考え方です。考案者はフレドリック・アレクサンダー(Frederick Alexander)。【写真・上】オーストラリア人ですがイギリスで没した。享年86歳(1869~1955年)。立ち姿の美しさに拘り、頚椎の上にある頭骨の使い方をいろいろ考え、後世に広く影響を与えた。首から上の元祖的な考え方です。

◎ピラティス・メソード
胸椎(12個)が最も重要。全てはココから始まり、徐々に上下双方へと発想する考え方です。考案者はジョセフ・ピラティス(Joseph Pilates)。【写真・中】ギリシャ人ですがドイツで育ちアメリカで没した。享年79歳(1888~1967年)。胸椎の前面にある肋骨を支える横隔膜(内臓筋群)の使い方をいろいろ考えた。首から下への考え方(エネルギーの摂取と排出)に類似する量的運動が多く、分かりやすい。特殊なギアなども考案、ビジネス的に最も成功したと思われる考え方です。

◎フェルデンクライス・メソード
腰椎(5個)が最も重要。全てはココから始まり、徐々に上方へと発想する考え方です。考案者はモーシェ・フェルデンクライス(Moshe Feldenkrais)。【写真・下】ロシアで生まれたユダヤ人、ブランスで育ち、イスラエルで没した。享年80歳(1904~1984年)。腰椎の下にある骨盤の使い方をいろいろ考え、多方面に影響を与えた。今日ある様々な”骨盤エクササイズ”と称するものは多かれ少なかれココからのアイデアが殆どです。

<首から上>のルーツとなった3名は、今から70~60年前、第二次世界大戦の前後に活躍。一世風靡。後世に様々な影響を与えました。生前、アレクサンダーとピラティスはまったく接点がない。一方、フェルデンクライスはアレクサンダーの弟子。が、やがて頚椎の上(頭)と腰椎の下(腰)とで意見が対立。生涯、仲直りすることなく没した。三者三様の拘りが強く、表現の仕方もそれぞれ違う。用語や意味も違う。しかし、脊柱の使い方、つまり<首から上>のエクササイズが現代へと受け継がれているわけです。時代は変化する。だから、その時々でトレンドやベクトルが少しづつ変わりながら人々のエクササイズへのモティベーションをキープする。首から上か。首から下か。その双方か。時計の振り子が左右に動くのに似ていますね。ご参考までに…。

AD研 今野純